HOU一級建築事務所

style ~手法~
HOU一級建築士事務所が提供できるもの

集合住宅の建替え

国家の政策と企業の原理により乱造された集合住宅を建替えあるいは再成させることは企業主体のもとでは成功の可能性は低い。

区分所有法という何とも未整備で心許ない法のもと多くの人達が生活を営んでいる集合住宅。建物としての減価償却も終わってないのに既存不適格のレッテルを貼られ財産としての価値、流通にも制限が加えられていく不合理。

集合住宅に住む人達は価値観も生活事情も異なるが区分所有権を持った権利者である。一つ屋根の下に住む別々の方向を向いて生活している人達が、自分たちの住宅の問題を通して同じ方向を向き、同じ問題について考えることの難しさ、すばらしさを語り合えるのは、企業ではなく、公正なジャッジとそれを形に表現できる建築家しかいない。集合住宅の建替えは内部として還元率等、経済問題を含む権利者全員の合意形成、外部として地域環境の変化等に対する近隣住民との合意形成、さらに、行政、関係機関、ディベロッパー等のバランスの良い判断があって初めて成功するものだと思う。

もちろん自分たちの住宅をなんとかして建替えたいという地権者住民の強い意志とエネルギーは絶対条件である。大変な仕事だけれど、多くの人達のすばらしい出会いには代えられない。

エンパイアコープ建替え計画

「住民全額自己負担・大幅な規模縮小」という無慈悲な建替え計画を前に立ち上がる住民

エンパイアコープは東京オリンピック前の1963年(昭和39年)に竣工した。新宿御苑を背に環境にとけ込んだ秀美な集合住宅であった。竣工後31年を経た1994年某ディベロッパーより建替えの提案をされたが日影規制の影響で大幅に現状規模を縮小した上で全額自己負担というものであった。

いつかは建替えなければと考えていた住民有志がこの現状に危機感を持ち、建替準備委員会を立ち上げ、住民の一人である山内研は専門家として何とかして欲しいと相談を受ける。大前提は地権者住民の負担無しと従前専有面積の確保であった。新宿区のマンション建替えのための補助金制度と最大限の容積率確保を確保した上で保留床をできる限り多く創出する必要があった。

補助金に関しては新宿区側から内諾を得たが、指定容積率を100%確保する方法としては、高層にして日影をクリアする方法と、新宿御苑や周辺環境に配慮するために中層にして日影規制の緩和を受ける方法の2通りを考え、隣接する環境省(新宿御苑)と協議の上、東京都に日影規制緩和の許可申請の理由書を提出したが拒否されてしまった。担当行政官の見解はその時「隣の同意があれば法はどうでもいいのか?法にかなう計画があるのならそれでやれよ!」というものであった。何とも虚しい思いをしたものである。

新築工事写真(昭和37年)

新築工事写真(昭和38年)

立ちはだかる規制、幾度にもわたる行政との折衝

25階相当(建物高さ約80m)塔状建物で住民の合意形成ができあがった5年後には財政難から新宿区の建替えのための補助金制度が消滅してしまい、2001年には再スタート、すなわち総合設計で容積率を上乗せし、保留床を増やす計画に方針を変更した。

総合設計に適う敷地要件を満たすため隣地を取り込んだ形での計画で許可申請書類を提出する直前、東京都景観条例(2005年当時未施行)が発表され、その事前指導のもと神宮外苑の銀杏並木と絵画館を結ぶ軸線上の景観を事前確認した。その結果、総合設計による超高層案(高さ約120m)はもとより、一般確認案(高さ約80m)でも神宮外苑聖徳記念絵画館の丸屋根の背後にそびえ立つことになってしまうことが判明。設計・住民・行政の三者ともが「絵画館を望む銀杏並木の景観は国民の財産であって、維持してゆくべきである」という考えのもと、高層案を見直す方向で一致した。

新宿御苑に隣接し、景観上の軸線上に関わる場所に位置している上、厳しい日影規制がかかっている極めて特殊な敷地条件と住民主体の建替事業であることを鑑み、紆余曲折を経て最終的には当初の案にもどり日影規制緩和許可の取得に至った。期を同じくして新宿区高度地区変更原案が示され当該敷地も30mの絶対高さ制限を設定されていたが、これについても新宿区と協議を進めた結果、当初からの経緯をふまえ区長認可というかたちでの新宿区の高度地区認定による特例の認定を受けた。十数年間、随分と遠回りをしたものである。

しかしながら、この過程の中での様々な出会いは何物にも代え難い共通財産となっている。

モンタージュ/新宿御苑からの眺め(超高層案)

モンタージュ/絵画館と銀杏並木の景観と計画建物(高層案)

住民・設計・行政が三位一体となれたからこその成功

事業協力者はHOU事務所の基本設計図・事業計画書に基づき公募しディベロッパー数社が応募、最終的に野村不動産が地権者によって選定された。そして2010年7月、再建建物が竣工し、大半の地権者が戻ってきた。

建築基準法をはじめ法の原理原則は常識論であり、その解釈、運用は決して国民の生活に必要以上の制限を加えるべきものではないと思う。しかし現状は必ずしもそうではないことが多い。この計画の成功は法の原則と真意を理解した上で柔軟な判断と対応をしてくれた行政・関係機関の担当者との出会いなしではありえなかったであろう。住民・設計・行政が三位一体となれたからこそ、この計画は成功したのだと思っている。

最後になったが今に至るまで地権者住民の方々は大変な努力と苦労をしながら、時には本音をぶつけ合い、時には助け合い、一丸となって十数年に渡りこの計画を進めてこられた。この努力と苦労を継続した住民の方々のエネルギーこそがこの計画の原動力であったと思っている。自己負担無しの計画案を知りながら環境と景観保護の為、相応の負担金に応じてくれた地権者住民の方々の見識と英断に最大の感謝と敬意を表します。

エンパイアコープ建替え計画(2010年7月竣工)(1995-2010)

建築主:エンパイアコープ管理組合法人
所在地:東京都新宿区大京町
敷地面積: 1959.02㎡
延床面積:11546.34㎡
構造:RC造(免震)
規模:地下2階/地上13階
事業協力:野村不動産株式会社

進行中の建替え計画

(仮称)T共同建替計画(計画中)

(仮称)白金台二丁目共同建替計画(進行中)(2003-)

建築主:共同建替委員会
所在地:東京都港区
敷地面積:1674. 35㎡
延床面積:13287.63㎡(*)
構造:RC造(制震構造)
規模:地下2階/地上34階
(*)東京都総合設計制度 容積率の緩和許可取得による緩和容積率を含む